不動産取引におけるお金の動き

不動産を自身で売る、買う、また、お客様所有の不動産を仲介するとき、動かす金額が数百万円から高額の場合は数億円になることもあります。当然、このとき多額の現金を目の前に揃えて札束を数えて受け渡すといった方法は出来るだけ避けて、支払元の銀行口座から相手の銀行口座へ振込む等の方法を採ります。現金は数えることや盗難、紛失を考えると扱いにくい代物です。

 

それでも、ごく稀なケースとして多額の現金を受け渡した経験をお話します。

自宅の売却に際し、その自宅には売主が物件購入時に利用した住宅ローンの抵当権が附いていました。さらに、生活費のために借金をしたことで、第二順位の抵当権が附いていました。また、共同生活者と称する方が、購入時の自己資金は自身が負担したことを理由に物件を占拠しており、売却するのであればその分の返還が退去の条件であると主張していました。

 

交渉の結果、お金さえお支払いすれば鍵を引き渡していただけることになりました。通常であれば分配されるべき金額について、それぞれ関係者の指定口座に振り込むことになります。ところが、売主と共同生活者との関係が微妙で、返還金額は取引終了後に二人で決めたいとのご希望でした。このとき、抵当権者へ返済する分のみを振り込み、売主と共同生活者が受け取る分を現金にすることも考えられました。しかし、振込み手続きが完了する1時間余りの間に、二人の微妙な関係がもとで引き渡しができなくなることを危惧し、全て現金で処理し、その場に二人を残して一同は立ち去り、取引を完結させました。

 

現金は取扱いの安全性という点で決済手段として好ましくないことは前述のとおりですが、自由に分割できることや余計な手続きを必要とせず、受け取った瞬間から使用できる特徴を生かして、この時は取引自体をスムーズに進めることができました。

 

この事例の背景として、不動産の取引は「一期一会」のことが多く、信用買い、つけで買って後払いということは馴染まないということが挙げられます。そこで、決して相手を疑っているわけではないのですが、不正が起こりえない手順や確認事項に十分配慮し、たとえ悪意がなくても手違いで片方が取引を続行できない状況に陥ったときも含め、相手に迷惑がかからないよう現状復帰できる段階で一度状況を整理し、そこから先は双方の「同時履行」を原則とします。

 

今回は、主に現金による金銭授受の問題点とそれでも敢えて利用したことについて述べてきましたが、それに限らず「同時履行」となるよう様々な工夫がされます。扱う金額が大きいこともあって慣れないと神経が磨り減る思いですが、原則を理解して創意工夫し、思惑通り取引が完了したときの達成感はたまりません。

 

だからと言って、決して現金での取引をしたがるわけではないことを最後に付け加えさせていただきます。